「卒業研究(卒研)って、結局なにをするの?」
「研究室って、なんだか怖そう。毎日泊まり込みみたいな感じ?」
「実験が失敗したら単位を落とすの?」
中高生だと、卒研は“謎のイベント”に見えがちです。
でも実は、卒研は化学科の4年間の中でいちばん「化学を使える力」がつく時間です。
難しそうに聞こえますが、やることを分解すると意外とシンプルです。
この文章では、化学科4年生が行う卒研について、1年間の流れ、研究室の生活、失敗との付き合い方、卒論や発表で見られるポイントまで、できるだけ噛み砕いて説明します。
この記事のポイント
- 卒研は「正解のない問題」に挑戦する時間で、やることは“考える→試す→測る→まとめる”の繰り返しです。
- 大変さの正体は失敗そのものより「なぜダメか分からない時間」。
原因を一つずつ切り分ければ前に進めます。 - すごい結果より「筋の通った進め方」と「分かりやすく説明できること」が評価され、社会でも役立つ力になります。
卒業研究を一言でいうと「正解が決まっていない問題に挑戦する授業」
高校の授業や定期テストは、基本的に「答えがある」ものですよね。
教科書に書いてある内容を理解して、問題を解けば正解にたどりつけます。
でも卒研は違います。卒研は、
まだ答えがはっきりしていない問いを、自分の手で確かめて、結論をまとめる
というものです。
これが“研究”です。
もちろん、いきなり天才みたいな発見を求められるわけではありません。
多くの場合は、先輩たちが積み上げてきたテーマの続きを担当したり、条件を変えて性能を改善したり、測り方を工夫したりします。
卒研が「特別」なのは、答えが用意されていないこと。
だから、やっていて大変な場面もあります。けれど、その分だけ成長が大きいです。
卒研で身につく力は、この3つが特に大きい
卒研は「実験がうまい人が強い」と思われがちですが、本当はそれだけではありません。
卒研で身につく力は、社会に出ても強い武器になります。
1) うまくいかない原因を探す力
研究は、思い通りにいかないのが普通です。
そのときに「なんでダメだったんだろう?」を冷静に切り分けて、次の手を考える力が育ちます。
2) データから判断する力
感覚ではなく、測定結果やグラフ、比較から判断します。
「この条件の方が良い」「この仮説は違うかも」と、根拠を持って言えるようになります。
3) 分かりやすく伝える力
卒研は最後に、発表や卒論(卒業論文)があります。
「自分は何をして、何が分かって、次は何が課題か」を説明する力がつきます。
卒研はいつ始まる?1年間の流れ(ざっくり)
大学によって多少違いますが、卒研の流れはだいたい似ています。
ステップ1:研究室配属(3年後半〜4年前半)
3年生の終わりごろに研究室が決まり、4年生から本格スタート、という大学が多いです。
研究室は「先生+大学院生+4年生+3年生(見学や仮配属)」みたいなチームです。
ステップ2:テーマ決定
「あなたはこのテーマを担当ね」と決まります。
テーマは、先生が用意してくれることが多いです。
ゼロから思いつく必要はありません。
ステップ3:立ち上げ(最初の1〜2か月が山)
ここが最初の難所です。
やることは主に3つです。
- 研究の背景を知る(文献や先輩の資料を見る)
- 実験の手順を覚える(安全・器具・測定)
- まず再現できるようにする(同じ結果を出す練習)
ステップ4:本格的な実験・測定(夏〜秋が山場になりやすい)
ここから「試す→測る→考える→また試す」の繰り返しです。
上手くいけばどんどん進みますが、詰まると一気に時間が溶けます。
ステップ5:中間発表(ある大学も多い)
途中で発表があり、「今どこまで分かったか」を整理します。
ここで方向性が修正されることもあります。
ステップ6:卒論・最終発表(年明け〜2月あたりが多い)
最後は「まとめる」フェーズです。
図表を作り、考察を書き、発表スライドを作って、卒論を提出します。
研究室生活ってどんな感じ?(忙しさのリアル)
中高生が想像する「研究室=ブラック」みたいなイメージは、当たり外れがあります。
ただ、共通して言えるのは、4年生は授業より研究が中心になることです。
- 平日は研究室に行く日が多い
- ゼミ(発表練習)や輪講(論文を読む会)が週1回くらいあることが多い
- 実験は「待ち時間」もある(反応待ち、装置待ち、乾燥待ち)
「ずっと手を動かしてる」日もあれば、「測定待ちで資料整理」みたいな日もあります。
忙しさはテーマにもよります。
有機合成系は実験時間が長くなりがちで、分析・計測系は装置待ちの工夫が必要だったり、計算系はパソコン作業が中心だったりします。
化学科の卒研テーマ例(ざっくりイメージ)
大学によって内容は幅広いですが、雰囲気をつかむために例を出します。
有機系(合成)
新しい分子を作ったり、反応条件を工夫して収率(できあがりの割合)を上げたりします。
測定はNMR、IR、質量分析などで「本当に狙いの物ができたか」を確認します。
無機・錯体・触媒
金属を使った材料や触媒を作って、性能を評価します。
色が変わったり、結晶ができたり、分かりやすい変化が出るテーマもあります。
分析・計測
「より正確に測る方法」を作ったり、前処理を工夫したりします。
検量線(濃度と信号の関係)や、妨害のチェックなど、丁寧さが武器になります。
材料・高分子・電気化学
樹脂や膜、電池材料などを作って、強度や電気特性を測ります。
「作る→評価する→条件を変える」の繰り返しになりやすいです。
生命・バイオ寄り
タンパク質や酵素、細胞に関係するテーマもあります。
手技が細かかったり、試薬の管理が厳しかったりと、独特のルールがあります。
卒研の大変さの正体は「失敗」ではなく「原因が分からない時間」
卒研がつらいと言われる最大の理由は、失敗そのものよりも、
なぜ失敗したのか分からない時間が続くこと
です。
例えば、こんなことが起こります。
- 反応が進まない(昨日は進んだのに今日は進まない)
- 測定結果がバラバラ(同じ条件のはずなのにズレる)
- サンプルが汚れてしまう(混ざりものが入る)
- 装置が混んでいて測れない(予定が崩れる)
ここで大事なのは、メンタルではなく「切り分け」です。
卒研で強くなる人は、原因を候補に分けます。
- 操作(混ぜ方、温度のかけ方、時間)
- 試薬(古い、濡れている、純度)
- 装置(校正、設定、汚れ)
- 条件(濃度、溶媒、pH、順番)
「どれが怪しいか」を一つずつ潰していくと、研究は進み始めます。
逆に、全部を一気に変えると原因が分からなくなります。
だから、卒研は「焦ったら負け」になりやすいです。
最初の1か月でやるべきこと(ここが勝負)
卒研が上手くいくかどうかは、最初の1か月の動きでかなり決まります。
1) まず安全を覚える
化学系は安全が最優先です。
白衣・ゴーグル・手袋、ドラフトの使い方、廃液の分け方、薬品ラベル、保管ルール。
ここを雑にすると、研究どころではなくなります。
2) 文献は「全部読む」じゃなく「必要な部分を拾う」
いきなり難しい論文を全部読む必要はありません。おすすめは、
- まず総説(レビュー)や先輩のまとめを見る
- 次に要旨(アブストラクト)で全体をつかむ
- 図表と結論を先に見る
- 分からない単語はメモして積み上げる
これで十分スタートできます。
3) 実験ノートとデータ整理の型を作る
研究は「再現できること」が大事です。
未来の自分(1か月後の自分)が見て再現できるように、条件・量・温度・時間・手順・気づきを残します。
データは、ファイル名だけでもルールを作ると強いです。
例:「日付_試料名_条件_測定名」みたいに揃えるだけで、迷子が激減します。
卒論と発表で見られるポイント(成果が出ないとダメ?)
結論から言うと、卒研は「すごい結果が出たか」だけで評価されません。
もちろん結果が出れば嬉しいですが、研究は結果が出ないこともあります。
それでも評価されるのは、次の部分です。
- 目的がはっきりしている
- 方法が妥当(なぜその実験をしたか説明できる)
- 結果が整理されている(図表・比較ができている)
- 考察が筋道立っている(言い訳ではなく推論になっている)
- 次の課題が見えている
卒論の形はだいたい決まっています。
背景 → 目的 → 方法 → 結果 → 考察 → 結論 → 今後の課題
発表も同じで、「何が分かったか」を分かりやすく言える人が強いです。
難しい言葉を並べるより、比較や図で語るほうが伝わります。
研究室選びで後悔しないコツ(これから配属の人へ)
もし将来、研究室を選ぶ場面が来たら、「テーマ」だけで決めないのがおすすめです。
テーマは変わることがありますし、興味は途中で育つこともあります。
大事なのは「相性」です。
- 指導が手厚いか、自分で進めるタイプか
- 実験中心か、解析中心か
- 研究室の雰囲気は合いそうか
- 装置が混みすぎていないか
- 就活や院試との両立が現実的か
見学のときは、先輩に「1日の流れ」と「大変だったこと」を聞くとリアルが見えます。
中高生が今からできる準備(本当に効くやつ)
卒研は4年生の話ですが、準備は早いほどラクです。
しかも、難しいことは要りません。
- 数学:微積分の“増える減る”の感覚
- 物理:エネルギー・波・電気の雰囲気
- 英語:短い文章を読む習慣(単語を積み上げる)
- レポート:目的→考察→結論の型を知る
特に「レポートの型」を早めに覚えると、大学で化学実験が始まったときに強いです。
よくある質問(FAQ)
Q. 卒研って毎日研究室に行くの?
大学や研究室によりますが、4年生は研究中心になるので、平日は行く日が多いです。
ただし「ずっと実験」ではなく、測定待ちやデータ整理の日もあります。
Q. 研究が全然うまくいかない人はどうする?
普通です。うまくいかない時期があるのが研究です。
大切なのは、原因を候補に分けて、一つずつ潰すこと。
そして早めに相談することです。
Q. 就活と卒研は両立できる?
できます。ただ、段取りが重要です。
研究室によって支援の仕方も違うので、見学時に先輩へ聞くのがおすすめです。
Q. 研究室の人間関係が不安…
不安に思うのは自然です。だからこそ研究室見学が大事です。
雰囲気、先輩の話し方、相談しやすさは、短時間でも結構伝わります。
まとめ:卒研は「化学を使える人」になるための1年間
卒業研究は、難しい言葉で言うと「未知の問いを、仮説と実験で前に進める訓練」です。
やさしく言うと、
分からないことを、測って、考えて、少しずつ分かるようにする練習
です。
うまくいかない日もあります。予定が崩れる日もあります。
でもその経験が、化学を学ぶ価値を一段上げてくれます。
もし「化学科って何をするの?」から全体像を知りたい人は、先に4年間の流れの記事を読んでから、この卒研の記事に戻るのもおすすめです。
逆に、卒研が気になっているなら、あなたの興味(有機・材料・分析・生命など)に近い研究室を探すところから始めると、進路選びが一気に現実的になります。
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